「てめーは二度と誘わねえ! なあ、一之瀬~」

「疑問に思ってたんだが。俺にK女の知り合いはいないのに、なんで向こうは俺を知ってるんだ?」

 唐突に目を逸らされた。その目は泳ぎ、いかにも「やましいことがあります」と白状している。

「吐け」言わなければ、と睨みつければ彼は視線を忙しなく彷徨わせてビクビクと口を開いた。

「いや、その。俺K女にダチがいてさ、そいつに『友達にいい男いない?』って聞かれたわけよ。そんでお前の写真見せたら気に入っちゃってさ、こっちもカワイイ子紹介するから今度連れて来てって…」

「俺はお前に撮影許可を出した覚えはないんだけど?」

「…あ~。一之瀬さ、顔も女ウケもいいし何か使えるかと思って、こっそり…。ほら、どんだけ頼んでもOK出してくんないし。でもさすがに送ってはいねえよ!?」

「10秒以内に全て消せ。でないと、試験前に一切フォローしない」

 いち、に。帆高がカウントすれば、彼が慌てて携帯を操作する。9秒数えた所で、消去しましたと表示された画面を見せられた。

 彼とは今年に入ってから知り合った。学部は違うものの受講する授業が複数重なるため、よくつるんでいる。とんでもなく阿呆だが、根は悪くないことは短い期間で熟知している。

 今回は無罪放免で許してやることにした。しかし二度目があったら。脅しをかけておくことも忘れない。

一之瀬には頭上がらないな。引きつった顔でコクコクと頷く彼を見て、前の席に腰掛けた友人が愉快そうに声を立てる。

「隠し撮りは悪かったって、勘弁してくれよ…。なあ、一之瀬。やっぱりお前、彼女いるんだろ? それならそうと言ってくれよ~。向こうだって諦めつくと思うからさあ」

「本当にいないって。向こうにはいるって嘘言っとけばいいだろ」

「あっさり引き下がると思うか? じゃあその彼女はどんな子なんだって聞かれまくるって。俺、上手く誤魔化す自信ねえよ~」

「そこまで知るか。あー、うるさい。付け入る隙もないぐらい円満で、詳しくは教えてくれないとでも言っとけ。自分で何とかしろ。お前の自業自得でもあるんだからな」

「そりゃそーだ。あ、俺も聞きたいんだけど一之瀬ってこっち系なの? 俺のこともそういう…」

 正面で手の甲を反らせて頬に当てる馬鹿が言い終わらないうちに、隣から無断拝借した教科書の背で制裁を下す。冗談なのにと頭を押さえて呻く馬鹿者に、今度は隣人が笑う番だ。

「じゃあ、俺行くから。来週までの課題、忘れんなよ」

「え? 課題出たの!? うっわ、寝てた! …って、教えてくれって!」

 帆高は隣の友人の背を叩いて不敵に笑うと、さっさと教室を出て行った。いつの間にか、室内には彼の他にはニヤニヤ笑いの因縁の男しか残っていなかった。

「…あーっと、課題何だった?」

「今日何時に、どこ集合?」

「……くっそ、分かったよ! で、何だって!?」