ボーン ボーン 柱時計の鐘が鳴った。

「あと2日、か。早いな」

「この数日間、すごく楽しかったなー。学校に行けたし、最後まではいられなかったけど体育祭も応援できたし。今のところ調子いいから、期限いっぱいまでいられるかもね」

「ここんとこ最長1日半で済んでるし、病院に逆戻りしなくても良かったし。ついてたんじゃないか」

「お願いしてた甲斐があったかも。実は神様にお願いしてたんだよね、お母さんから一時帰宅を提案された時から。帰ってきた一週間、何事も無く過ごせますようにって。直接お願いしに言ったわけじゃないけど、もしかして叶えてもらえてるのかな」

 なんて。珠結は適温になったイチゴオレに口付ける。季節柄、冷める時間も早くなったが湯気はほんのりと立ち上っている。

「珠結がそう思うなら、そうなんじゃないか」

「んん? 帆高がそんなこと言うなんて意外。非現実的だ、他力本願だって否定すると思ってたのに。初詣も受検の時でさえ、お参りに行かなかったじゃない」

「そんなこと。願ったところで叶うかどうかは、最終的には自分の努力と心がけ次第だ。俺には願わなくったって、実現させる自信もあった。それにな、神頼みってのは生半可な気持ちでするもんじゃないんだ」

「え、そうなの?」

 目から鱗。帆高の真剣な瞳と空気に気圧され、正座したままの珠結の背筋がより伸びる。

「人間にとって神ってのは、崇拝かつ畏怖すべき超越した存在だ。そんな恐れ多い存在に、軽々しく頼み事なんてするもんじゃない。無理に当てはめれば、俺達みたいな一国民が天皇に何とかしって、直々に食って掛かるようなものか」

「そう言われれば、そうだよね。うー、あたし色々とお願いしまくってるよ。遠足の前日に明日は晴れますようにとか、テストのヤマが当ってますようにとか。小さくてくだらないことばっかり」

「日本人なら、大抵はそうなんだから気に病むことはない。実際、神様も些細なことを躍起になって全てを叶えるほど暇じゃないだろうし。今回珠結が願ったのは珠結自身でどうにもできることでも欲深いことでもないから、案外聞いてもらえたって考えて喜んでもいいと思うけど。…珠結、少し歩けるか」

「もう心配ないけど。どうして?」

「叶えてもらったって思うなら、お礼に行くのが筋だろ。行くぞ」

 コーヒーを飲み干し、帆高は腰を上げて珠結を見下ろした。