☆自殺志願者(4)

多々羅大橋まで、現実的な時間にしておよそ10分というところか。
俺は片耳イヤホンとマイクのみのヘッドセットを装着した。これでまいらのHMDと無線通信ができる。
頭に自転車用メットをかぶり、外に飛び出した。

星瞬きはじめた夜の蒼が、沈む寸前の太陽まで鮮やかにグラデーションしている。
先に外に出ていたまいらのシルエットが薄暗く浮かんでいる。となりに俺の自転車があった。急いで駆け寄る。

「今日、空、すごい綺麗だね・・・」

まいらの言うそれは本当だった。沈む蒼と紫の天球に圧倒された。
皮肉なものだと思った。こんなに綺麗な空が今、俺の命を危機にさらそうとしている。

「・・・気をつけてよ」
か細い声。
「大丈夫だ」
まいらの頭をころころなでた。
「・・・うん」
少しは安心してくれただろうか。俺もほっとした。

電動アシストマックス。ハンドルを握る。地を蹴り加速を開始する。
「じゃあ行く!準備出来たら来い!」
「うん!私もすぐ行くからー!」
背中からのまいらの声。加速をつけつつ、右手を挙げて応えた。


まいらが泣いた、遠いあの日を思い出していた。

この島を守るのは俺たちなんだ。
14歳の少女と俺の、血の結束のようなものを感じていた。