「あ、そうだ」
家を出る直前。
あたしは重要なことを思い出す。
「廉がいつも通りの時間に迎えに来ると思うからそのときは…よろしく」
「え?廉くんに早く行くこと言ってないの?」
お母さんが驚いたように目を丸くする。
「言い忘れちゃって。
それじゃあ行ってきます」
「気をつけてね」
「転ぶなよー!雫ー」
お父さんとお母さんに見送られ家を出る。
いつもより20分早く起きたおかげで20分早く家を出ることに成功。
そしていつもよりゆっくり歩く。
……え?急がなくていいのか、って?
いいの、別に。
学校に宿題忘れた、なんてウソだから。
ただ…廉と顔を合わせたくなくて早起きしたの。
どうせ廉のことだからいつもみたいに迎えに来るんだ。
それで昨日のことなんてなかったかのような顔して
「また寝坊?」
ってあたしのこと、からかうんだ。
それが分かってたから。
だから、いつもより早く家を出た。
こんなこと…初めてだよね、廉。
あたしが黙って先に行く、なんてこと。
だから…きっとビックリしてるよね。
けど、許してね。
今、廉と顔を合わせたらきっと、この想いが暴走しちゃうと思うから。
この『好き』って気持ちがなくなったら…
いや、今より小さくなったら…前みたいに幼なじみに戻ろう。
それでまでは…あたし、廉と話すの…やめようと思うんだ―――…………


