「じゃ母さん、俺達そろそろ帰るから」


「うん、ありがとうね壱。毎日来なくても、たまには家でゆっくりしてていいからね」


「はいはいわかったから、母さんこそ、夜はちゃんと休んでよ」


「わかっているわ」


「じゃ」


「ではおば様、失礼します」


「若菜さんもありがとう」




俺は若菜と病室を出た。


若菜はいつものように、俺に自分の腕を絡めてきた。




「ねぇ壱?」


「何だ?」


「……凛さんって誰?」



若菜が低い声で言った。



「凛?誰?俺知らないけど」


「…いいえ、何でもありませんわ」



この女。


いつから俺と母さんの話を立ち聞きしてたんだ…?



だがここは、敢えて知らないふり。




「壱は私の彼氏で、婚約者なんだからね」


「そんな事、わかってるよ」


「壱は、私から離れられないんだからね」


「ああ」


「じゃ壱、今ここでキスしてよ」



若菜が急に立ち止まった。



「ここは病院だぞ若菜」



俺はそんな若菜を無視して歩き直した。



「壱のバカ」



若菜もすぐ後から歩いて来た。



キス…?


これ以上凛を裏切るのはごめんだ。