「い・・・柏木君?私の家に何か用?」



"壱"って言いそうだった。




柏木君は、私を見るなりカバンから何かを取り出した。



「柏木君?」


「これ、渡しに来た」




柏木君が手にしてたのは、私の名前が書かれたノートだった。




「どうしてこれを柏木君が?」


「担任が、南沢に渡すの忘れたって言うから、家が近い俺に届けてくれって頼まれた」


「そうなんだ。あ、ありがとう」


「確かに渡したから」



そう言って柏木君は、私の後ろにいる塁を、チラッと見て歩き出した。




「柏木君!」


「おい凛・・・・」



私は、塁の言葉を無視して柏木君を呼んだ。



柏木君は立ち止まって、私の方を向いた。




「あ、あの・・柏木君って・・」


「俺は多分、南沢が知ってる"壱"って人とは違う。」


「え…?」


「だって俺、あんたの事知らないから」




それだけ言って、柏木君は立ち去った。



何も声がかけられなかった。