-塁 side-
俺と壱は、裏庭にやってきた。
「どうしたんだよ?何か話でもあるのか?」
俺は聞いた。
「塁、お前は俺の全部を知ってるんだよな?」
「ああ。親父や兄貴から聞いたから」
「……俺、昨日ずっと考えてた。凛に全部話す事を」
「話すって?」
「ずっと逃げてたんだ俺。この現実から」
昨日とは明らかに違う壱の顔。
俺の知ってる壱の顔。
「どうせ凛と居られないのなら、ここへ戻ってきても意味がないって、ずっと思ってた。だけど、俺の中に居る凛は大きくて、どうしょうもなくなってここへ来た」
「……」
「お前は、「バカにしてるのか」って言ってたけど、バカになんかするわけないだろ。俺は、本当にお前が羨ましかったんだ」
壱は少し笑ってた。
けど、少し悲しい笑顔だった。
「……うん」
俺は初めて返事をした。
「だけど塁、これも分かってほしいんだ。俺にとって、母さんはたった一人の家族なんだよ。母さんを放っておくことは、俺には出来ない」
「それって……」
「凛に全部は話すけど、気持ちを伝えることはしない。もし気持ちを伝えたとしても、一緒にいてやれないのなら、余計に凛を苦しめるし、傷つける。凛には心配かけたくないし、これ以上嘘はあまりつきたくない。だから、俺の今の状況はきちんと話すけど、それ以上の事は俺はしない」
俺は分かっていたはずだ。
苦しいのは、凛や俺だけじゃないって。
壱だって苦しいはずなんだ。
俺は分かっていたはずなのに、昨日…自分だけの感情で壱を殴ってしまった。



