「茜と涼に何か言われたのか?」
俺は、壱にボールを投げながら問い掛けた。
「たいした事じゃないけど」
壱も、ボールを投げ返しながら答えた。
俺は、投げられたボールを受け取り、さらに壱に聞いた。
「なぁ壱……」
「なに?」
「親父さんの事、大変だったな」
それを言った瞬間、壱が俺に近付いて来た。
「どこで聞いたんだよ」
少しこわばった顔で俺を見て言った。
「俺の親父から。営業先の会社が、お前の婚約者の父親が社長の会社らしくてな」
「だからそんな顔してんのか?」
「そんな顔って、俺どんな顔してんだよ?」
「かわいそうって顔だよ。そんな顔するなよ。腹が立つ。同情でもしてくれる気か?」
「何言ってんだよお前」
すると壱は、鼻で笑って言った。
「同情とかやめろよ。俺はお前らを裏切ったんだ」
(そう言う割には、悲しい目をして言ってる)
「なぁ壱。お前、まだ凛が好きなんだろ?」
壱の身体が、少し反応する。
「親父の話と凛の話は関係ないだろ」
「だな。だけど、凛の事はお前もよく知ってると思うけど、凛は優しいやつだ」
「……」
「これくらいではきっと、凛はお前の事を嫌いにならない。俺はよくわかんないけど、ただ……同情だけは俺はしない」
「お前に何が分るんだよ!」
「分かんねーよ。お前の事はお前しか分かんねーんだから。だから、話してくれなきゃ分かんねーって事だよ」
「俺はもう、前の俺じゃないんだよ」
壱はグローブを地面に落とし、どこかに行ってしまった。
「……クソッ」
俺はグローブを、地面に叩きつけた。
なんでこんな悔しい思いをしないといけないんだ。



