家紋さんがため息をつきながら、メガネを指で押し上げる。

「桜田さんが使う部屋を必要以上に掃除しています。屋上からロープにぶら下がり、窓拭きをして落ちそうになりましたし」

…7階だよね?

「昨夜は、床にワックスをかけて滑っていました」

危ないなっ!スケート場かよ?

「本当に笙はわかりやすい。嬉しくてじっとしていられないんですよ」
笑う家紋さん。

確かに…単純と言うか何と言うか。

主任って、嬉しさを身体いっぱいで表すんだよ。
ただのオーバーアクションかもしれないけど。

そういう主任を、かわいいと思う私もいる。

だからって結婚はしないよ?!

ただ、かわいいってだけ。
結婚するなら普通の人がいい…。

いくら顔がよくても、主任は普通から外れまくりだ。

主任だけじゃないけどね。

「で、いつ引っ越しすんの?」
栗田さんが、お茶菓子の焼き芋を頬張りながら聞いてきた。
「今月の24日にしようかなと」
25日の誕生日はゆっくりしたいし。

「じゃあ、荷物運ぶトラックは手配するよ」
引っ越しには、みんなが手伝いに来てくれるらしい。
嬉しいよね?
保安課って、こういう自発的な団結があるんだよね。