渋谷駅につくと、吉田さんは私の手をそっとほどいて、トイレに入って行ったしまった。バイバイという感じじゃなかったので、私は彼が出てくるまで待っていることにした。ところが、5分たっても10分たっても出てこない!もしやまた寝てしまったのでは!?そう思ってトイレの中を確認したくても、改札前でみんなが見ているし男トイレを覗く勇気がなかった。そのまま30分経過して、私は思い切ってトイレから出てくる見知らぬ男の人に話かけた。

「あの〜、すみません。」

「はい?」

「トイレの中で寝てる人いました?」

「あ〜戸しまってるとこあったね。彼氏?」

「もう30分も出てこなくて・・・」

「声かけてきてあげようか。彼氏の名前なんて言うの?」

「吉田です。ありがとうございます!」

私たちと同じように昨夜から飲み明かして始発待ちをしていた感じの、私よりちょっと年上な感じの男性が、吉田さんに声をかけにいってくれた。でも安心したのも束の間、戻ってきた男性は申し訳なさそうに私にこう言った。

「彼氏しっかり寝てるみたいで返事しないよ。戸が開かないんじゃ助けてあげられないわ。」

「そうですか・・・」

「駅員呼べば?」

そう言って、じゃ!と帰ってしまった。ただ寝てるだけならいいけど具合いが悪かったら・・・私は駅員を呼んだ。しばらくトイレの個室の戸を挟んで吉田さんと駅員さんは戦っていたけど、結局吉田さんは出てこなかった。駅員も出てこないんじゃどうにもできないと言って放置。これ以上なすすべなく、私は駅員にお礼を言って、疲れたのでタクシーで帰宅した。あとでタクシー代請求してやる!なんて憤りながら。

「美鈴、大丈夫だった?」

お昼すぎマリコからの電話で起こされた。私は事情を全部話した。

「だからね、もしかしたら今もトイレの個室にいるかもなんだけど男子トイレだから行っても確認できないし・・・」

「わかった!私鶴見さん連れてってあげる。彼に見てもらおう!」

そしてその数時間後、渋谷駅に再び登場した。