オフィスレディの裏の顔

次の日、会社で携帯に折り返してほしいという渡辺さんからの留守メッセージが残されていることに気づいたが、廊下で話せる内容でもないので定時になってから折り返した。

「お疲れ様です。お電話いただいてた梨香です。」

梨香とは私の偽名だ。

「あ~梨香ちゃん。電話待ってたよ。2人紹介したい人がいるんだけど、1人は急なんだけど今日なんだ。今から何とかならない?」

「ごめんなさい、今日はちょっと急すぎて無理です・・・」

「そこを何とか、ダメかな?その人ね、地方のお医者さんで学会で今日東京に来ていて、明日帰っちゃうんだ。紳士的ないい人だから会って損はないよ。」

「でも・・・ごめんなさい。」

用事があったわけじゃないけど急すぎて服装がイマイチだったので乗り気にならなった。

「わかった、じゃ明後日は?」

「その日なら大丈夫です。」

「あ~よかった。実はなかなか顔出してくれないお客がさぁ、梨香ちゃんの写真見せたら会いたいって言ってくれて。ほら、近くのあの、大手広告代理店の人だよ。」

「え!私そこに知り合いがいるので気まずいんですけど。名前聞いてもいいですか?」

「キムさんって知り合いにいる?」

「中国か韓国の方ですか?知り合いはみんな日本人なので大丈夫です。」

「在日じゃないかな?日本語話すし。じゃ明後日時間と場所はまた連絡するからよろしくね。」

「はい。お疲れ様でした~。」

そして当日、渡辺さんから待ち合わせ時間と場所、キムさんの携帯番号を聞いた。6時半に赤坂東急エクセル。広告代理店の人はいつも深夜まで仕事をしているイメージだったので、ずいぶん早い時間だなぁと思った。私は定時で会社を出て、赤坂見附の駅へと向かった。ホテルは駅を出てすぐ、目の前の大通りを渡ったとこにある。初めてだったので、入り口に少し迷ってフラフラしてしまったが、2階に上がって待ち合わせの喫茶店に入りお茶をして待っていた。ちょっと古い感じのホテルで、周りでお茶をしている人たちは年配の方たちばかりだった。