オフィスレディの裏の顔

「この封筒はなんですか?」

「帰りのタクシー代です。今日は楽しかったよ。ありがとう。」

私はびっくりした。食事を一緒にするだけで感謝されるなんて。

「それでね、美鈴ちゃん・・・お願いがあるんだけど。」

「なんですか?」

「また一緒に食事してもらえるかな?」

「えぇ、もちろんです。」

私は今日の食事で嫌な思いを一切しなかったので、お小遣いがもらえなくても食事代が浮くだけでもうれしかった。しかもこんな高級なお店で・・・。

「あ、いや・・・そうじゃなくて・・・。僕と今後もこうして食事するかわりに、赤坂のお店に行かないでほしいんだ。」

「え?」

「美鈴ちゃんには・・・その・・・あーゆーことしてほしくないんだ。まして嫌々しているならなおさら。食事だけですまないお客さんだっているだろうし。もしお金に困っているなら、僕に言って欲しい。」

本心でこんな優しい言葉を言ってくれているならすごく素敵な人だと関心を抱いた。確かに私もお金に困っているわけではないし、好きで赤坂に顔を出しているわけでもない。だけど恵一さんの言葉を信用していいか迷っていた。

「じゃあ、僕の携帯番号を教えておくから、おなかがすいたら電話してきて。それくらいのほうが重たくないでしょ?」

私は黙ってメモを受け取った。

「僕はここに住んでいるんだ。だから今日はタクシー乗り場まで送りますね。」

「宿泊されてるんですか?」

「いや、住んでるんだよ。レジデンスで2部屋年間契約をしているんだ。」

ホテルに住む?お金持ちはたくさん見てきたけどこんな人は初めてだった。呼んでもらっていたタクシーはすぐに来た。

「じゃあ、美鈴ちゃん、連絡待ってるね。」

「はい。どうもご馳走様でした。」

恵一さんに見送られタクシーに乗り、運転手に新宿駅までと告げた。車内でさっきいただいた封筒を開けた。中には諭吉さんが3枚入っていた。時計を見るとまだ7時を回ったばかり。こんな短時間で食事だけでこのお小遣い!うれしい反面、罪悪感もあった。その罪悪感を少しでも軽くしようと、私は家に帰ってからお礼の電話をした。留守電だったのでメッセージを残しておいた。