オフィスレディの裏の顔

「あの〜・・・」

私が再び声をかけようとしたとき、吉田さんは私の手を引っぱり、エスカレーターで上の階へ上がった。少し右往左往している彼をみて、レストランを探してるのかな?と想像した。けれどこの階には高級レストランしかない。私は彼に気を使った。

「吉田さん?食事なら下の階にレストランがあるみたいですけど・・・」

「あ、いや、ちょっとまって。たぶんこっち・・・」

彼は私をおいて、先に1人で何かを探しに行ってしまった。

「お!あった!」

手招きする彼のほうへ私は近づいて行くと、彼は私を目的のお店へエスコートした。

「いらっしゃいませ。」

入口に立つ店員に、吉田さんは話かけた。

「予約している吉田です。」

「お待ちしておりました。上着とお荷物をお預かりいたします。」

その会話を聞きながら、私は動揺しっぱなしだった。それに気づいた吉田さんが私の耳元でささやいた。

「前に水沢さんが行きたいって言ってたやろ?」

「わぁ〜覚えてたの?」

そのフレンチレストランは、以前芸能関係の仕事をしていたときの社長が行き着けのお店で、スポンサーがいなければ高くてなかなか行けないところだった。私はここの裏メニューのフォアグラソテーが大好きだった。でも・・・今日私はここで食事するだけのお金を持ち合わせていない。吉田さんが料金のことをわかって予約しているのかもすごく不安だった。そう考えて入口で躊躇していた私は、彼に背中を押され席へ座った。時間が早いからなのか、平日だからなのか、私たちが一組目のお客様だった。スタッフみんなが私たちに注目していた。