水沢美鈴。24才。来年には・・・四捨五入すれば30才。「モデルのたまご」と言うのは名ばかりで、プチ芸能活動収入と銀座のクラブでバイトをして自由気ままに生活を続けていたけど、その業界で稼ぐにはそろそろ年齢的に限界。真面目に就職しようと派遣会社へ登録に行った。これまでの職歴からしても事務職は厳しいんだろうな・・・と自覚はしていた。けれど予想に反して登録した翌日からすぐにお仕事紹介の電話がまめにかかってきた。少しだけパソコンを使った業務の経験があったので幸運にも大手会社の業務の紹介を受けることができ、すぐに面接の予約を入れた。
面接当日、派遣営業担当の千野さんと会社近くで待ち合わせし、一緒に会社へと向かった。面接部屋で待っていると、面接官の2人が入ってきた。

「!」

面接官の1人に見覚えがあった。少し前に銀座のクラブにお客で来ていた人・・・。この面接は落ちたと思った。

「キャリア派遣会社営業の千野です。宜しくお願いします。」

「水沢と申します。宜しくお願いします。」

すると面接官から名刺を渡された。

「部長の中田です。宜しく。」

「高野です。宜しくお願いします。」

中田・・・やっぱりお客様だった。しかし中田さんは私に気づいてるのかいないのか、全く普通に座っている。お店で席についたのはたったの1回。もしかしたら覚えてないか、私の服装や髪型が夜と違うので気づかないのか・・・。業務の説明も私への質問も全て高野さんからだった。彼女はとても小柄な女性だけど見た目はキャリアウーマン風。中田さんが一切言葉を発しないので、一瞬どちらが上司かわからなくなるほどだった。

「今ご説明申し上げた通り、仕事内容は事務というよりパソコンの持ち運びなど体力を使うことが多いですが大丈夫ですか?」

「はい。体力には自信がありますので。」

「わかりました。では結果は来週火曜日までにご連絡します。」

30分もかからない面接だった。