「あのよ、人間て、つーか生き物ってすげぇよな」

「は?」

急に話が変わって振り向きそうになったが、こらえた。

振り向いた瞬間に、和幸との会話が終わる気がした。

「だってだぜ? 成長するのに必要なのは、自分ひとりの生命力なんだぜ。そりゃあ、ものを食ってる以上なにかの命を糧にしちゃいるんだが……細胞分裂も、肉体の成長も、精神が育まれていくのも、基本的に個人の能力だ。生き物は、人間は、ひとりで生きていける」

「……」

「だけど、お前の兄ちゃん悪いことしてるんだわ、これが。ひとりの人間に必要なのは、ひとり分の人生で充分なわけだぜ。でもな、お前の兄ちゃん、このルール守ってねぇんだよ。ひとりの人生に、何人も何人もつぎ込んでんだ。これって贅沢じゃねぇか?」

「……なにが、言いたいんですか」

「だからさ」

じゃくり。と、また砂利の踏まれる音がした。

「お前家族のこと……つぅか、お前の周りにいた人、いたはずの人のこと、思い出してみろって話なんだよ。お前の兄ちゃん――人間じゃねぇんだから」

「! どういうことですかっ!!」

黙っていられない言葉に、美幸は怒鳴りながら振り返った。

しかし――予感が、的中した。

最初からそこにはだれもいなかったとでも言うのか、背後に和幸の姿はなかった。
さっき、たしかに砂利を踏む音が聞こえたのに。

独り言では、ないはずだったのに。