もちろんその人はエスパーなんかじゃなくて、
「大丈夫?」
と優しい顔が、心配そうに私の顔を覗き込んだ。
彼が保健室の扉を開けてくれたのだ。
私が好きな、心がホッとする優しい笑顔がそこにあった。
でも今は、
今だけは、
優しい笑顔も、
さらさらな茶色の髪も、あったかい黒い瞳も、
見たくなかった。
私が恋した優しさも、
今だけは向けて欲しくなかった。
それでも、
「大丈夫です……」
と言えた私を、ちょっと褒めてあげたい。
私のかぼそい声に被せるかのように、私を抱えている人がボソリと呟く。
「ユキト」
「あ~、ごめん。俺がここにいたら入れないね」
私の視界から彼が消えると、抱えられた状態のまま、私はふわりとベッドに横たえられた。



