「乗れ」
振り向いた私の目の前にズイッと差し出されたのは、黒いヘルメット。
「あ、秋月会長……!」
どうしてここに、と訊きたいけれど、きっと耳には届かないだろう。
突然のことに戸惑い、ヘルメットへ手を出さないでいる私に、秋月会長は更にもう一度突き出した。
有無を言わさぬその行動に、思わずヘルメットを受け取ってしまう。
無言で後部を指差した秋月会長は、なにを根拠にしているのか、私が乗ることを疑っていないように見える。
──乗りますよ。乗ればいいんでしょう。
そう思いながらも、私はまたバイクに乗れることが少しだけ嬉しかった。
流れる風は、日常を置き去りにしようとしているようで、心地いい。
少し高い視界は、澄んだ空気を吸える気がする。
爆音が心臓を震わせていた。



