私に口を挟む猶予なんてなかった。
「ったく。俺だったから良かったようなものの。
次見かけたら、こんなもんじゃ済ませねーからな」
少し馴れ馴れしさを感じるくらいの言い方。
何が『俺だったから良かった』のか、
『次はどうすませない』のか。
疑問はあとからあとから湧き上がってくるけれど、
例え訊いても答えてはくれないだろう。
言うだけ言った彼は、不敵ににやりと笑う。
さっさと私から離れると、バイクに跨がってエンジンをかけた。
手をひらひらと動かし、まるで子どもに接するそれ。
「バイバイ、結香チャン」
ブルンと跳ね上がった音を残して、ワインレッドが走り去る。
じんじんと熱を持つ、掴まれた両の手首をほぼ無意識でさすりながら、
視界から消えていく間、ぼんやりと見ていた。



