さわさわと流れる、春の気配と匂い。
昇降口を出ると、校舎のライトはぼんやりとしか照らしてはくれなくて、
ひしひしと近付いてくる夜に、辺りは暗さを増していた。
うっすらと瞬く星に、時間がわからなくなるけど、
ケータイを見せてくれる暇も、
校舎の時計を振り返る余裕すら、秋月会長は与えてくれない。
もっともケータイはカバンの中で、カバンはまだ秋月会長が持っているんだけど。
だから今が何時くらいなのか全くわからなくて。
もしだいぶ遅かったりしたら、親になんて言われるかな……なんて少し不安でもあるけど、
それより不安なのは、
秋月会長がカバンを返してくれる気があるのかどうかだ。
いやそれより不安なのは、
秋月会長が向かっている先が、校門ではないということだ。



