静寂に包まれる南蛮寺。千与以外に誰もいないその空間で千与はひたすら祈りを捧げた。

「千与様。」

その言葉に振り返ると、穏やかな笑みを浮かべるジョゼがいた。

「ジョゼ…」

「お久しぶりですね。」

「はい。」

ゆっくりジョゼは千与の元に進み、正面にある十字架を見つめた。

「…今日、でございますね。戦は。」

「はい。父上も今は姉川におられます。」

「以前お話していたあのお方も、やはり?」

千与は苦々しい笑みを浮かべ頷く。無理矢理笑顔を繕っても、隠しきれぬ気持ち。その儚い想いを汲み取ったジョゼも表情が強張る。


「―千与様、神の前では偽りはいけませぬ。そなたは戦をどのように思いますか?」

「この世にあってはならぬこと。そう思います。武家の娘がこのようなこと申すのはならぬと皆言うでしょう。されど、わらわはそう思うのです。」

―何故、戦でしか天下を統一できぬのだろうか。
―何故、統一せねばならぬだろう。

人間はなんて愚かなのだろう。

ただ、その疑問が千与を包んでいた。晴れることのない霧のように。