ジュエリーボックスの中のあたし

ユキはゆっくりとあたしから橘さんに視線を移した。



ユキの下には頬が膨れ上がった橘さんがいる。



ユキはただ無表情に橘さんを見続けた。



しかしもうあの氷つくような表情はしていない。


あたしはよい兆しが見えてきたと思った。



あたしはユキの血だらけの拳を手で包み込んだ。


「ユキ、あたしは大丈夫だよ。大丈夫だから。自分を傷つけないで。」



「ハァハァ。こいつはミリを傷つけた。」



「傷ついてないよ。」



あたしは橘さんの上にいるユキをゆっくりと引っ張って橘さんを自由にした。



橘さんはゆっくりと起き上がると猛烈に頭を下げた。



「本当にすまない。本当にすまない。」



「俺のミリに手だしといて誤ってすむと思ってんの?」



ユキはまたしても橘さんの胸ぐらを掴んだ。



「ユキ!」



今度はちゃんとあたしの声が届いたようだった。


あたしの方を向いたユキは渋々手を離した。



「出てけよ。二度と俺たちの前に姿見せんな。次会ったらまじで殺す。」


俺ではなく"俺たち"という言葉が嬉しかった。



この状況に不似合いな感情を抱いているのはたぶんあたしだけ。



橘さんはヨロリと起き上がると早くユキから離れたいとでもいうように、急ぎ足で玄関へ行くとやがて姿が見えなくなった。