ジュエリーボックスの中のあたし

それでも振り向かない。


ユキの冷酷そのものの横顔に背筋がゾクリとした。



ユキがぶちきれるとこんなに静かなんだ。



しかしその無言の怒りは今まで見てきた誰の怒りよりも怖かった。



彼氏にホステスをやめろと怒鳴られたことだってある。



殴られたこともあった。


しかしその時すら、今より恐いとは感じなかった。



あたしにはホステスを止められない理由があるから……



怒られても殴られたって揺らがないの。



橘さん上に跨ったユキは拳を振り上げた。



もうなりふり構ってられない。



あたしは背中の痛みを抱えて立ち上がり、ユキの振り上げられた腕に飛びついた。



しかしユキが振り下ろす腕の力は以上な強さで止めることは出来ずあたしは床に振り落とされた。


しかしそれでやっとユキは我に返ったようだった。



ハッとしたようにあたしを見ると



「ごめん。」



と呟きあたしを抱き起こした。



ユキの呼吸は荒く肩が上下していて、全身全霊で橘さんを殴っていたのがわかる。