ジュエリーボックスの中のあたし

あたしは景色を見たまま返事をしなかった。いや、出来なかった。



あたしの目は涙でいっぱいで、少しでも声を出したら確実にバレてしまう。



「ミリ、ごめん。」



もう一度ユキは言った。


あたしは外に目をやったまま大きく頷いた。



そして顔を上げた瞬間ガラスごしにユキと目があってしまった。



泣いていることは確実にバレてしまったのにユキは何も言わずに走りつづけた。



それが悲しさを煽り余計にあたしは涙が止まらなくなった。



あとからあとから押し寄せてくる嗚咽を止めるのに精一杯だ。



これ以上ユキにとってめんどくさい女にはなりたくない。あたしにめんどくさい女なんて柄じゃないし似合わない。



なによりもユキのそばにいられなくなる。ユキにとって心地いい距離の女でいたいのに。



泣くなんてめんどくさい女の最もたるだ。



しかし自分の意志とは裏腹に嗚咽は止まる事なく口から漏れる。



「ヒック、エック、ヴ」


最悪だあたし。



向こう側の信号が青から黄色へ。そして赤へ変わった。



ブレーキが効き、車が止まるや否や、あたしは運転席からユキに抱き寄せられた。



「ごめん、ミリ、ごめん。泣くなよ。」



そう言ってあたしの髪にキスしたユキは、ますます強くあたしを抱きしめた。