ジュエリーボックスの中のあたし

「ミリー、風呂沸いてるから早く入んな。ミリー」


数分後、洗面所からユキの声が聞こえてきたけど、今のあたしは返事するどころではなかった。


「ねえ、ミリ聞いてるー?ミリー、って何やってんの?」


リビングに戻ってきたユキは訝しげな声をあげた。


床にはあたしのバックの中身が散乱し、当のあたしはバックの中身をあさっていたからだ。


「通帳落とした。」


「は?」


聞き返すユキをまたまた無視して、はたしてあたしはどこで通帳を落としたのか。一生懸命に考えを巡らした。


………


…きっとあの時だ。


アフターの後いつものように橘さんは、あたしのマンションまで送ってくれた。


橘さんと別れタクシーを降り、ユキのマンションへ向かう前に、このまま一度自分のマンションへ行き郵便物などを調べようとエントランスに入った。


ポストを開け手紙を見ている最中、あたしは後ろから急に橘さんに抱き寄せられた。


橘さんはよかったよかったなどと訳の分からないことをぼやいた。


さすがのあたしもこの時ばかりは怖くなったが、橘さんはごめん飲みすぎたなどと誤り、タクシーに戻って行った。


その時に違いない。抱きしめられた拍子に開けていたバックを落とし、中身がバラバラと飛び散ったのだ。