「ただいまあ。」


玄関を開けると驚いたことにまだ部屋の明かりがついていた。ふと視線を下ろすと女物の靴が一足。


あたしは不安になり、急いで靴を脱ぎ捨て、おそるおそる明かりに向かって歩いた。


居間に入るドアを開けるとユキはテーブルに座り、何枚かの紙をまとめそれを差し出した。


あたしにではない。ユキの横には案の定あたしの知らない女がいた。


その女もユキもあたしに気づき顔を上げた。


黒く長いストレートの髪。切れ長の目にまつげがしっかりカールしてある。


しっかりとスーツを着込んだその女は大和撫子(やまとなでしこ)という言葉がよく似合う日本美女といった感じだった。

「あっ!ミリおかえり。今日はもう来ないと思ってたよ。」


ユキは嬉しそうにあたしにニッコリしたけど、あたしも黒髪の女も凍りついたような表情でお互いを見つめるだけだった。


「だれ?」


「ああ。俺の秘書の加奈子だよ。加奈子、このこはミリ。美人でしょ?」

ユキの秘書だという事を理解したあたしはいくらかホッとした。


秘書なら話し合いやら打ち合わせで家に来ることもあるだろう。


現に毎朝、朝食を運んでくる長髪男も同業者に違いないのだから。