「美里（みさと）ちゃん！橘さんがいらっしゃったわよ。」


「はーい。」


気持ちをスッと切り替えて、化粧室からママの声のする方へ向かった。


「橘さん！最近顔見せて下さらないから心配していたんですよ！」


あたしは久しぶりに会えて、さも嬉しいかのように橘さんに駆け寄った。

「いや、いろいろ忙しくてね。美里は最近何していたんだい？」


あたしは席に案内しながら少し拗ねたように答えた。


「お店で働きながら橘さんが来るのを待ってたわ。」


いつもならこれで嬉しそうに顔を歪ませるはずなのに橘さんは表情一つ変えずにまた質問をしてきた。


「美里顔色が悪いね。お店が終わったらちゃんと家で休んでいるかい？」

「？ええ。そうしているわ？」


橘さんはムッツリと悲しげな顔をしていて、本当に心配しているんだとでもいいたげだった。


橘さんはあたしのお客様の中でも本当に上客で、定期的にお店に顔を出してくれる。


品がありみんなに優しい橘さんは、ホステスからも人気があり訪れた際には、あたしのヘルプに尽きたがる子も少なくない。


でも今の橘さんの表情はあたしを純粋に心配しているというよりも、最近の疲れがどっと顔に出ているようにも見えた。


「橘さんもお疲れのご様子よ？」


結局それからも橘さんは口数少なく、ヘルプについた愛香ちゃんの言葉もなんとなく相づちを打っただけだった。