ジュエリーボックスの中のあたし

「お腹すいたー。」



ある冷える夜。無言でテレビを見ていた彼がつぶやいた。



「今日はあの執事みたいな人こないね。」



「うん。今日はこないよ。ミリなんかつくって。」



「いやよ。めんどくさい。って、え?何であたしの本名しってんの?」



驚くあたしに彼はニヤッと笑い、一枚のカードを目の前に差し出した。



「キャー!何勝手に人のバッグ開けてんのよばか!」



差し出されたのはあたしの免許証。



「だってお腹すいて、飴でも入ってないかなって思ってさあ。」



「あんたは犬か。」



「みりって最近免許とったばっかりなんだね。ククッ。変な顔。」



免許証の中のあたしを可笑しそうに見る彼。



確かにまぬけな顔してるよ。してるけどそこまで笑うか。



「失礼なやつ。もう絶対ご飯なんてつくんないから。」



「ごめんごめん。こういうミリもかわいいよ。俺的には普段の澄ましたミリより寝てるときのマヌケ顔のほうが好き。」



「誉められてるのかよくわかんないけど、一応ありがと。」



いくらか鼻持ち上がった声で返答するあたし。



「ほらね。普段のミリは綺麗すぎるんだよ。ちょっとくらい崩れてるミリの方がなんか人間らしくて安心する。」



人間らしくないのはあなたでしょう。



そう言おうと思ったけどなんとなくやめた。



「で、ご飯どうする?どっか食いに行ってもいいけどそれもめんどうだしなあ。俺なんも作れないし。」