ジュエリーボックスの中のあたし

しばらくあたしはそのまま抱きしめられていた。


しかしやがて我に帰りお礼を言おうとしたのも束の間、彼はなにも言わずスルリとあたしから離れそのまま店の中に戻ってしまった。



急に暖かさが消え妙な寂しさが残った。



しばらくしてやっと我を取り戻したあたしも店に戻った。





「もーどこ行ってたんですかー。」



店に戻るや否や、やけに甘ったるい愛香ちゃんの声が聞こえた。



それから店で彼にからむことはなく、別のお客様とアフターに行く事になり早めに上がることになった。



お会計してる間に外で待っててと言われあたしはコートを羽織り玄関に向かった。



出る直前彼の席に目をやると彼らはまだそこにいた。



相変わらず楽しそうな連れとは裏腹に、なにも読みとれない目で彼はマリアの話を聞くとはなしに聞いていた。



はやく上がって正解だ。なにしろあたしはあれから彼がなんだか気になって仕事にならなかった。


ペースを誰かに乱されるなんてあたしらしくもない。



一瞬彼と目が合ったような気がした。



が、それはわからずじまいだった。彼はすぐそらしてしまったし、何よりもあたしを見ていたのかすら定かではない。



不思議な目。



あたしは重い扉を開けてもう寒い冷えた闇に歩き出した。



冬はもうそこまで来ている。