ジュエリーボックスの中のあたし

「な、な、なんだ。君は。」



あたしはまるで放心状態。抱きしめられたまま時が止まってしまった。



彼のなんとも魅惑的な香りにクラクラする。



2人の会話もあたしとは別の遠いとこで行われているような気がした。



「ダメですよ。おじさん嫌がってるでしょ。」



「な、なんのことだ。」


この期に及んでごまかそうとする山岸。権力を振りかざす男に限ってピンチに弱い。



山岸はごまかそうとしているようだが、ごまかしきれていない。目が完全に泳いでいる。



「おじさん○○商社の方ですよね。こんな事が社にばれたらまずいんじゃないですか。僕が変な気を起こさないうちに今すぐ立ち去ったほうがいいですよ。」



丁寧な口調とはうらはらに彼の言葉は凄みがきいていた。



「行ってくれ。」



専属運転手に伝えるや否やドアを乱暴に閉め山岸はあたしを一度も見ずにそそくさと行ってしまった。