私は笑った。

おかしくて笑ったのか、そんなことを言う彼女がかわいらくて笑ったのか、ばからしさで笑ったのかはわからないが、おもしろかった。

「はは、そうか、恋人か、ははは」

「ええ。そう思えません?」

口元に手をやり、肩を竦めるように妻も笑う。

ふふ、ふふふ。竦めた肩も揺れ、ウェーブのかかったボブが震える。

彼女では到底真似できない大人の笑声が、耳にも心にもこそばゆい。

大学時代で置き去りにしてきた淡い感情が、寄りかかってくる。いや、寄りかかってきたのは、妻だ。繋いだ手を引き寄せて絡ませ、体の側面を触れ合わせ、肩に頭をもたげてくる。

「まだ少し、冷えますね」

「そうだな」

「あっためてくださいます?」

「今からでもいいなら」

私が彼女に求めているものは、妻にはない。彼女の白さは、妻にはない。

だが妻には私に求めているものがあるのだろう。

だから私がどこに行っていたか聞かない。だから私の手を取り、私と夜空の下に出てきた。

恋人という道程を無視した関係を築いた私達は、もしかしたら今日から恋人になれるのかもしれない。

「覚えてらっしゃいます?」

「なにを?」

「キスは、好きな相手とするものだっておっしゃいましたよ」

「覚えてる」