航太と初めて会ったのは
予備校の説明会だった。
受かると信じていた
地元の大学に落ち、
私は予備校に通わなざるを得なかった。
家庭内の金銭的余裕を考えると
必然的に地元の小さな
予備校しか選択肢がなかった。
そんな小さないくつかの
条件がそろったから
私は航太と出会った。
あの時
隣に座っていた航太は
説明会の間延々と
片耳にイヤホンをしていた。
私は航太の形のいい耳に
納まっているイヤホンから
なかなか目を離すことができない。
「貝みたい」
それが自分の声だと
気がつくまでに幾分かかかった。
はっと気づき、航太の顔を見返してしまう。
そんな私を気にもとめずに
航太は驚きも嫌悪感もない顔で
「ありがとう」
と言った。
初めて聞いた航太の声は
濡れた落ち葉のような
くぐもった懐かしい響きがした。