夕方渋谷に行くことを考え、今回は青山あたりをフラついてみることにした。

表参道の交差点からそのまま坂を下り、麻布方面にゆっくりと歩きながら行き交う女をさり気なく見定めてみる。

金持ちそうな女は結構いるが、ピンと来る女がいない。

特にこれといった収穫もなく坂を下りきってしまい、仕方なく今度は下ってきた方と反対
側の歩道で表参道方面にゆっくり引き返す。

そのときだ。

洋菓子店から出てきた女が目に付いたのは。

カチッとした服装ではないのに、遠くから見ただけでも、その女が『いいトコの奥様』なのだろうと分かるような、上質な雰囲気が漂っている。

「この女だ」と思った。

特に理由などない。でも、俺の直感はいつも当たる。

この女はきっと落ちる。

落とせる。

そう思った。

俺は一つ大きく息を吸ってから、表参道方面に歩き出す女を小走りで追いかけ、切羽詰まったような表情で女に声を掛けた。