「ちょっと、早く靴脱いで中入ってよ!」

「へあ?」

突然のことに間抜けな声を出した京平に千夏は「邪魔!」と怒鳴りつけた。

京平は慌てて靴を脱ぎ、畳の室内へと入った。

二人分の靴を置いただけでいっぱいになってしまうほど狭い玄関に、
狭くて古びた畳の部屋。

部屋には家具らしき家具はほとんど見当たらなかった。

「ここ、が。お前の家なのか?」

「そうよ悪い?ぼろいけど、屋根があれば十分でしょ。それより何なの?つけるならつけるでもっと上手くできないわけ?バレバレだし、迷惑だし、最低っ」

千夏は床に座ってコンビニの袋を小さなテーブルの上に乱暴に置いた。

「お前、ちゃんと飯食ってんのか。そんなんじゃ体壊しちまう、」

「関係ないでしょっ!」

「でも、」

「兄貴面しないで!」

千夏は忌ま忌ましげに言い放った。

京平は未だ突っ立ったままだ。

「何しに来たわけ?どうやって調べたの!信じらんないっ」

「俺はただ、お前を探して、会って話したくて」

「今更何を話すっていうのっ」

千夏はふんっと鼻で笑った。

京平は信じられず、千夏に詰め寄った。

「千夏お前どうしたってんだよ。何でそんな…お前、千雪のこと、気にならないのか?産んですぐ離れて、会いたいとか、」

「…思わないわ。悪いけど」

千夏の言葉には一つも迷いがなかった。

これにはさすがにカーっと京平の頭に血が上る。

「どうしてっ!」

壁に千夏を押し付けて怒鳴った。

「何でだよ!お前が自分で一人で産むって決めたんだろ!?お前そのために高校辞めて、俺を説得したんだろ!?俺を好きだって言ったのも、全部、全部嘘だったのかよ!?」

「っ、離してっ」

「何だよ俺は、お前をずっと信じて待ってた俺は、…一体何だったんだよ!」

「…」

胸に溜まっていたもやもやを全てぶちまけた。