今まで生きてきた人生の中で1番幸せな時間だった。

世の中の男は全て父親のように暴力を奮う人ばかりだと思っていた。

だけど、こんなにも優しい男の人がいた。

彼は自分を助けてくれたうえに、自分のことを好きになってくれたのだ。

「――華…」

名前を呼んだ隆一と目があった。

その瞬間、唇にぬくもりを感じた。

彼の唇は温かくて優しかった。

華はそのぬくもりを躰の中に閉じ込めるように、目を閉じた。

しばらくの間、八神の唇を感じていた。

そっと、八神の唇が華の唇から離れた。

「じゃ、またね」

「――おやすみなさい…」

八神が背中を見せて歩き出した。

華は見えなくなるまで、彼の後ろ姿を見つめていた。