「――でも…私の話も、聞いて欲しいの」

涙をぬぐいながら、綾乃がこう言った。

「――私、母親に虐待されていたの…」


それは、幼い時のことだった。

「この悪魔!」

乾いた音と同時に、頬に衝撃が走る。

目の前には、鬼の形相の母親が立っていた。

頬の痛みと母親の怖さに、幼い綾乃は大声をあげて泣いた。

「うるさい!」

母親が綾乃の髪をつかむと、畳のうえにたたきつけた。

母親が豹変したのは、つい最近のことだった。

少し前までは、誰もがうらやむような幸せいっぱいの家庭だった。

母親も優しくて、こうして殴られることなんてなかった。

だけど、両親は離婚した。

離婚の原因は、父親の女性関係だった。

そのせいで離婚した母親の性格が変わってしまったのだ。