違う違う!

綾乃は頭を激しく振って、よみがえりそうになる記憶を消そうと必死になった。

そうでもしないと、自分が壊れそうだった。

夕夜が愛しているのは、自分だけだ。

先ほど言われた別れの言葉は、ウソに決まっている。

――もういい加減にしてくれよ!

先ほど言った夕夜の言葉が頭の中でリピートされた。

――華を傷つけたくないんだよ!

「――傷つけたく、ない……」

夕夜のまねをするように、綾乃は呟いた。

傷つけたくないと、夕夜は言った。

「――だったら、傷つけてやる…」

綾乃の口からその言葉がこぼれ落ちた。

そんなに大事だと言うならば、ズタズタに、ボロボロに、彼の大切なものを傷つけてやる。

綾乃の心は、そんな思いで燃えていた。