「じゃ、いってきま~す」

真新しく、まだぎこちない制服に身を包み、自転車に乗る。

「お母さん、仕事で行けないけど、大丈夫?」

美沙子が心配そうに聞く。

「もぉー、小学生じゃないんだから。平気、平気。お母さんも仕事、頑張って」

寂しくないと言ったら嘘。

しかし、美沙子が働かなければ生活は出来ない。

入学式に親が来ない。その位は大した事じゃない。

「そう、…ごめんね」

申し訳なさそうな美沙子から愛情を感じる。

「何、言ってんの。もう、ホントに出ないと遅刻しちゃうから。行くよ」

「そうね。行ってらっしゃい。気を付けてね。今日は早く帰るから夕飯はご馳走作ってお祝いしようね」

笑顔で手を振る美沙子に、桜夜も笑顔で手を振り返す。

「楽しみにしてるよ。じゃーねー」

庭の桜がまた小さく風に舞った。

――――――

「ただいまぁ~」

返事のない家の中に桜夜の声が響く。

「お腹、空いたなぁ。んー、でもなぁ、食べる気がしないんだよなぁ~」

制服から部屋着に着替えた桜夜は、ゴソゴソと冷蔵庫をあさる。

「そぉだ。アレ」

桜夜は鞄を開き、帰りに雑貨店に寄って買ってきた物を出す。

ピアスをあける為にピアッサーを購入したのだ。

高校生になったらピアスにしようと決めていた。

「うぅっ…いざとなると怖いかも…」

リビングのテーブルに鏡と消毒液を用意して、ピアスを見つめる。

「んー、よしっ。やってみよう」

まずは左耳。バチン!

「いったぁぁぁぁ~いっ」

「誰だよ!痛くないっていったの!MAXで痛いじゃんっ」

ジンジンする耳を押さえ、右耳はどうしようか悩む。

「いや、もう無理だわ。片方だけでいいや」

左耳を消毒しながらソファーに寝転がった。