虎はなにも言わずにお願いをきいてくれて、その手は私から離れていった。

自分からやめてと言っておいて矛盾しているけれど、それがとても寂しかった。

相変わらず真顔のままの虎と目を合わせていられなくて、なんとなく少し俯く。

もう少し、別の言い方をすればよかったな。

そう反省していると視線の先にあった虎の影が、私へと近付いてきた。


どうかしたのかな?

私が俯いていた顔を上げようとすると、それより先に額になにか柔らかいものが触れた。


近付いてきた虎。

前髪越しに触れた柔らかいもの。

それを理解した瞬間。
私はバッと勢いよく顔を上げた。


顔を上げた先に見えたのは真顔ではなく、ニヤニヤと笑う虎の顔で。

してやったり。

私には顔にそう書いてあるように見えた。