だけど人の波は思っていたより流れる力が強くて進むことが出来ない。

それどころか、人の流れに押されてしまいそうになる。


「あの、すみません。通して下さい」

声をかけても誰も聞いていないのか、どんどんと出入り口とは逆方向に行ってしまう。

私の力ではどうしようもなく、本当に流されそうになったとき。

強い力によって、私の体は人の波から抜け出すことが出来た。


強い力のおかげで人の波からぽっかりとあいた小さな空間に抜け出せた私。

そこにいたのは、私の左手をしっかりと握って苦笑している虎だった。


「ほんま花はほっとかれへんわ」

呆れたようにそういう虎。

だけどその言葉の響きにはからかいは含まれておらず、むしろ優しさが含まれているように私は感じた。