「……あれ?先生、どうしたんですか?」
気がつけば、2人の女子生徒がこちらを怪訝そうな表情で見つめている。
(…………………………マズい)
二人の女子生徒に不審に思われるのだけは何としても避けたかった。
何とかこの場を切り抜ける方法を考え、周りをそれとなく見渡していると………桐野はある事に気がついた。
「二人とも………もうすぐ………授業……始まるぞ……。」
「………え?……うわ、ホントだっ!イッコ、次何だっけ?!」
「え〜〜と、確か現国だよ!」
「よしっ!ダッシュで行けば間に合うッ!先生またホームルームでね!」
「あ〜!待ってよマヤ〜〜!先生またね〜!」
まるで台風のように過ぎ去っていく二人を見送りながら、桐野はただ、時計を見つめていた。
そう、彼女たちと同じように彼にも授業があった。
…………ただし教師として。
(……また……学年主任に怒られる……。)
断頭台に送られる罪人のような足取りで職員室に向かう桐野。
そんな彼の頭の上を、今年一番のイチョウの落ち葉が通り過ぎていった………。
(了)
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