「どれどれ」

芝居がかった口調でそう言うと、美弥は目が覗く分だけ、そろりと、戸を開いた。

保健室の教員は見当たらない。

「よし!入ってもよさそう」

小声で気合いをいれ、美弥、そして他二名、祐介と伶奈は頷いた。

実をいうと、彼らは保健室の先生を得意としていない。

つまりは苦手なのだが、そういうと少しばかり語弊がある。 

けして、悪意や敵意があってのことではない。

少なくとも、先方は、生徒会役員に好意を抱いている。
いや、むしろ恋い焦がれているといっても過言ではない。

現、保健室の教員、奥平さなえ曰く、在学時代、生徒会に大変世話になったから。
ということで、彼女は所謂、美弥たちの先輩である。

昔から西浅見高校生徒会役員は他校に名を轟かすほどの優秀組で、特に奥平女史が在学していた頃の生徒会は今の生徒会の基礎を作ったといわれる悪名、もとい、高名な世代だ。

それにしても、何があったか知らないが、奥平さなえが、生徒会に対する憧れの念を十年以上持ち続けているというのはたいしたものだ。

さらに、付け加えるなら、奥平女士は現生徒会長、斎藤卓也をいたく気に入っている。

そうともなれば、また、話はややこしくなってくる訳で、一昔前流行ったテレビドラマのような展開を期待する女教師と、そんな彼女にどう応えていいやら迷惑、もとい、戸惑う男子生徒という構図が、やおらおぼろげに出来上がってしまう。

彼女の執着心が、生徒会役員には煙たい。

保健室は生徒会、いや、卓也にとっていわば鬼門なのだ。

余談ではあるが、卓也にはかなり年の離れた兄がいる。

そして、彼もここ西浅見高校で生徒会長をしていたのだが、ここではあえて詳しく言及しないでおこう。

そんなわけで、卓也は保健室には近づけない。

そして、めったに動かぬ修二も近寄らない。

こうして残った三人は嫌々ながら保健室の前に立った。

なにはともあれ、先生不在となれば、善は急げ。

三人は堂々、保健室に乗り込んだ。