何だか話の展開が見えてきた。
これ以上は聞きたくないと心は叫ぶのに別の何かが阻止する。聞かなくちゃダメだと。


「うん」

「まぁ、彼氏さんは不満かも」

「?」

「どっちかと言ったら、"好きな人"より"彼氏がいる"の方が嬉しいと思うよ」


にっこりと武沢が言うと、山内さんは、そうかな……と薄く微笑む。それは俺が一度も見たこともない幸せそうな微笑みだった。


………もう聞いていられなかった。


俺は徐に立ち上がると、由や他の連中が呼ぶのを無視して教室を出た。


それからふらふらと誰も来ないような非常階段に向かって座り込む。冷たい風が頬を撫でていく。


はぁ、と息を吐いて空を見上げた。