『拓様、白純美様、御車の準備が整いました』 玄関の側に居たメイドさんの一人が、頭を下げて言った。 『そうか、ありがとう』 拓がそのメイドさんに向かって柔らかい笑顔を見せる。 いえ、と呟いたけれど、その顔はとても嬉しそうだった。 拓はこれが普通なのだろうけれど、私はモヤモヤした。 なんて心が狭いのかしら。 胸に巣食うのは、不安ではなく嫉妬。 その笑顔は、誰にもあげたくないとか、一瞬で思う。 ああ、私は貪欲。 こんなにも拓が好きだなんて。 今よりももっと、拓を欲深く求めるだなんて。