クリームパンを頬張りながら、友人の河本雄輔が思いきり眉間に皺を寄せた。
「なんだそのびっくり展開は」
「それは俺が聞きたいよ」
 昨日のカラオケで隣の部屋にいた他校の女子と仲良くなった、と鼻息荒く話す彼に、俺は笹原桂にピアノを演奏してもらった、とポロリと漏らしたところ、掴みかかる勢いで食いついてきた。
 人が集まりだした教室内、笹原桂はまだ登校していない。
「あああ悔しいっ、俺も音楽室にケータイを忘れてさえいれば!」
「お前は他校の女子といい感じなんだろ」
「馬鹿野郎、遠くの他校女子より近くの笹原桂だ。しかも笹原桂の方が比べるまでもなく美人なんだ、他校女子には最早ひとつのメリットもない」
 お前なんかにそこまで言われる筋合いはその子だってないだろうよ。
 喉の奥まで出かけた言葉はそのまま飲み込んだ。途中から白紙になっている現代文学のノートを写している最中に、持ち主の機嫌をこれ以上損ねるのは得策とは言えないだろう。
 昼休みが終わってすぐに始まる現代文学の授業を眠らずに受けられる河本を、俺は密かに尊敬していた。