呻きながら暴れる化け物へ、文字がどんどん絡みついていく。

「想像しよう。あるところからやって来た化け物は、本を媒体に移動し、ある者を討つための刺客だった」

文字が化け物を縛りつける。動きがどんどん拘束され、口が塞がれた。呻き声が遠くなる。

それでも、爪の伸びた真っ黒い手が空を掻いた。

千里ヶ崎さんを、襲いたくても襲えず、けれど襲わなくてはならず、腕を振り回す。

「しかし、化け物は標的を襲うことはできず、追い返されてしまった。憐れ、物語の主人公は実のところ化け物だったのだよ。だが、化け物は化け物でなくてはならないね。そう君は、その爪を振り下ろし、顔面に食らいつく相手が必要だよ。本を介してね。そう、だからお帰り。君の創造主のもとへ。いま、想像主たる、千里ヶ崎の魔女が命じてあげよう」

文字の緊縛が、さらに厳しくなる。と思ったら、空中の手帳へ、投網が引き上げられるように化け物が吸い込まれる。