「儚い化け物だよね、君は」

と千里ヶ崎さんは言った。

「人を襲わなければ化け物ではない。狂暴でなくては化け物ではない。双方のいずれかが欠落しても、化け物ではない」

「ギギギ……!!」

「にもかかわらず君は、人を襲うには『本』という媒体を介さなければならず、狂暴性は特定の条件でなくては発動されない。本物の皆川くんと遭遇した君は、そのありようさえ破綻してしまった。嘆かわしいことよね」

ポンポン、という間抜けな音がしたと思えば――なんて怖いもの知らずなのか、千里ヶ崎さんが化け物の頭を持っている手帳で叩いているのだ。

まるで、出来の悪い生徒を叱るように。

「こんな劣悪な呪いに使われた君も、運がなかったのね。もう少し技量のある術者に生み出されていれば、私を食らうこともできたろうに」

そして、手帳を宙へ放った。ばらりとページが開いたまま――空中に浮遊する。

それは、

「ιζ」

千里ヶ崎さんの、魔法だった。

彼女の不思議なかけ声を始まりに、手帳から、文字が溢れ出す。

千里ヶ崎ミシェルが誇る、〝想像による現実の上塗り〟――改竄式だった。