異様な光景だった。

香蘭さんに言われて行った、千里ヶ崎さんの書斎には、先客がいたようだった。

厭世的な千里ヶ崎さんに客人なんて珍しい――と思ったのは、客人の声を聞くまでだった。

僕が、千里ヶ崎さんと話をしている。皆川浩介が、室内にいる……?

まさか。僕はここにいるのに。

扉を開いたら、あっけなく真実を確認できた。

僕が、室内にいたのだ。

ただし、影が服を着たような、僕と精巧に似せられたに過ぎない、明らかな偽物が。

「ぁぁガァァァキィャァァァアア――!!」

僕ではない僕は、僕を見た途端に奇声を張り上げた。

口が裂けて、頭を抱えた手が野獣のように爪だらけになる。

〝化け物〟は慟哭し続けながら、手をいっぱいに伸ばして千里ヶ崎さんへ突進した。

首を絞めるつもりか!

想像は、裏切られる。

彼女に触れる寸前で、化け物は見えない壁にぶつかり、それ以上進めなくなったのだ。

「グ、ギ、グィギャ……っ!」

すっかり僕とは別物の、ただ服を着ただけの黒い人型が、醜い呻き声を漏らす。

千里ヶ崎さんは動じない。化け物がそれ以上近寄れないのを知っているからこそ、「どうしたの?」と笑んでいる。