「千里ヶ崎さん」

「なにかな」

受け答えははっきりしているから、寝ているわけじゃないようだ。

昼と同じように、手の甲をひたいに乗せているから、表情までは読めなかった。

「今日は、読まないんですか?」

「……皆川くん」

「はい」

「さっきの話を思い出したんだけどね」

「さっきの?」

「ほら、ケータイの化け物のことだよ」

ああ、と僕は頷いた。さっきは想像が掻き消されてしまったと唸っていたけど、もしかして、地下でずっと想像し直していたんだろうか。

「私は考え直したの。もしかしたら、化け物はたった一匹かもしれないとね」

「? 最初は複数で考えてたんですか?」

「うん。ほら、パンドラの箱は話したでしょう。あんな具合に、化け物は何匹も溢れ出た、と想像してたんだよ。だけど、実際はそうじゃない」

「〝想像〟に実際もなにもあるんですか?」

「あるとも。もちろんあるとも」

大仰に頷いて頷いて頷いてみせた千里ヶ崎さんが、僕を見る。

切れ長の瞳が不敵に――いっそ挑戦的に、僕を眺めた。