微笑みを絶やさない香蘭さんは――おかしい。タオルで手を拭いている。

見やると、いつの間にか水も止まっていた。

というか、すでに洗い物がきちんと陳列している。

「あの、香蘭さん……?」

「はい?」

「ひょっとしてもう、洗い物終わっちゃいましたか?」

「うふふ、ふふふふ。それは、うふふ、ひょっとしなくてもそうですよぅ? うふふふ」

笑うばかりの香蘭さんは、スッと僕の横を抜けた。

チャイナ服でありながら、割烹着姿が、台所をあとにする。

仕方なく短い三つ編みがちらちら揺れるのを追うと、またくるり、彼女は体ごと振り向いた。

そしてにっこり。

香蘭さんは真正面から僕を見つめてくる。

上目遣いが少し、いやかなり、かわいかった。

「皆川さまぁ?」

「はい?」

「どうぞ、ミシェルさまのところへ行かれてくださいなあ? 私はこのあとも、諸事ございますゆえぇ。きっと、書庫か書斎にいらっしゃいますよぉ」

「いやでも、」

「皆川さまあ?」

にっこり……の中に、きらりと光るものがあった。

威圧感――反論は一切受け付けないという意思表示が、笑顔の裏から滲み出ている。

だから僕は、香蘭さんを追うのを、やめた。