「八重様に好意を寄せていたそうだ。」



え?



蛇儒が?



「異常なまでに執着がある。
その事があったせいで、蛇儒は師匠に追い出されたらしい。」


「そう、ですか。」



灯世はじっと考えこんだ。



母様と、関係があったなんて。



海澱と戦になったときに言ってくれれば立ち回りやすいものを。



「灯世?
大丈夫か?」


「はい、ただ驚いて…。」


「そうだな。」



芦多は立ち去る様子はない。



黙って灯世の傍にいてくれる。



「芦多様?」


「なんだ。」


「ありがとうございました。」



礼を言われるほどのことじゃない、と芦多。



しかし、灯世を気遣って情報を集め、こうして教えてくれた。



ありがたいことだ。



「それでは、私は行く。
灯世も落ち着いたら出てこい、夕食だ。」



灯世は一度頷いて見せた。



最後にちょっと微笑み、芦多は出て行った。



途端に灯世の顔は曇る。



どうして蛇儒は父様のことを知ったふうだったんだろう。



母様に執着していた、ということは、父様が邪魔だったに違いない。



まさか、蛇儒が…。



まさか。



嫌な想像が頭を回る。



灯世はそれを振り払うようにして、幕の外へ出た。